第九首: うかりける人を初瀬の(形容詞カリ活用)
2013年 04月 08日
はげしかれとは祈らぬものを
←恋心、おさまれ、いうておさまるものじゃなし
形容詞はこれまでの歌にも出てきました。「第三首: ひさかたの」では「のどけし」「なし」というク活用の形容詞。「第四首:奥山に」では「悲し」というク活用の形容詞が出てきました。形容詞の活用はこの二パターンのものしかないんですが…
「うかり」と「はげしかれ」は何かっちゅう話です。これ二つは形容詞なんですが(意味からなんとなくそんな気しますね?)、終止形は思い浮かびますか?
* * *
それぞれ、「うし(憂し)」「はげし(激し)」です。
「うし」は
うく うく うし うき うけれ ○ …ク活用
「ばけし」は
はげしく はげしく はげし はげしき はげしけれ ○ …シク活用
となっていますが、「うかり」も「はげしかれ」も出てきません。これは、ク活用、シク活用ともにオマケがついてるからなんですが、
うく うく うし うき うけれ ○ …ク活用
うから うかり ○ うかる ○ うかれ …カリ活用
はげしく はげしく はげし はげしき はげしけれ ○ …シク活用
はげしから はげしかり ○ はげしかる はげしかれ …カリ活用
なんでこんなふうにダブルに活用を持っているのかというと…と、説明したいところですが私は日本語の歴史についても無知なのでわかりません(^^;; ただし、文法の理解のための納得としては、ク活用にしてもシク活用にしても、うまく接続できないものがあって不便だから、ラ変動詞の「あり」をくっつけて使うようになったんだろうなぁというものです。
つまり、
「はげしく(シク活用連用形)」+「あり(ラ変動詞)」
=「はげしかり(ラ変動詞の活用をしてラ変動詞の接続ができるように成長した形容詞)」
というわけです。実際には、「はげし」があるから終止形はいらないんですけどね(だから、活用表上では「○」と示しています)。
とにかく、形容詞の活用は、「く・く・し・き・けれ」のク活用+ラ変、またはそれに「し」をプラスしたシク活用+ラ変です。
こういう感じに、なんかの言葉に「あり」をつけて変化させたらしき言葉がいろいろあります。だから、「あり」ってあまり仲間のいない変わり者の動詞(ラ変)みたいだけど、案外、ラ変型の活用をするもの…形容詞もそうだけど、助動詞の「めり」「なり」とか。いろいろあるんですよ。そう考えるとかなり幅が広いですよね。なにしろ「あり」なんて、「(そのように)存在する」という、無色透明な動詞だからこそ、そうやってほかのものをはめ込んで使えるんでしょう。
そんなわけで、この歌では過去の助動詞「けり」につく「うし」もカリ活用になり、命令形となった「はげし」もカリ活用となりました。
なんか、たったこれだけの話で妙に長くなっちゃいましたが(^^;; こうやって、「はぁ~不自由な分を『あり』くっつけて補ってるんだなぁ」と納得しておくのと、頭カラッポにして「くーからくーかり、しーきーかるけれかれ」とか呪文を唱え続けるのでは、その後の人生がちょびっとだけ変わってくるような気がしませんか?(^-^)
[訳読]
つれなかった人を(思い切れるようにとは)初瀬の(観音様に祈ったけれど)山おろしよ、いっそうつらく当たるようになれとは祈らなかったのに。
この歌は訳読しにくいですね。初瀬といったら観音様なんで、それに祈るという意味だとか、「はつせ」の「はつ」は「果つ」をかけていて、思いを断ち切れるようにと祈ったことを暗示しているとか、途中に「初瀬の山おろしよ」とか呼びかけが挟まれていて、しかも「山おろし」が激しいのと人がつめたいのが…なんてそんなコテコテにされたらほぐせません。だいぶ括弧で補ったけれど、あまりうまく伝わりませんね。
元歌の「はげしかれとは祈らぬものを」がずきりと印象に残る歌です。
元歌のまま味わいましょう(逃)
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by an-dan-te | 2013-04-08 17:54 | 中学受験 | Comments(5)
~的な。~みたいな。~の方。
でも古語のほうがきゅんとするのはなんででしょう。暗示ってわからなくても、なんか思うところあるんだろうなって思います。
> ~的な。~みたいな。~の方。
あぁ~なるほど、これって、透明というか、もうちょっとすりガラス的な? (←使ってみた)
ぼやかしている感じがします。空気感といえばそうかも…
> でも古語のほうがきゅんとするのはなんででしょう。
じーっくり、読むからかな?? 今残ってるようなものはスゴイものだけだから?? うーん…
日本語は、相手に解釈をゆだねているところがあるから、面白く、難しいですね。そういう文化、いつからなのかな。
日本人って、顔の比率が大きいでしょ。あれ、表情を読む文化のせいじゃないのかな、って思います。小顔の人が増えているかもしれないけど・・。歌舞伎のかたは、顔が大きいほうがいいって聞いたことがあります。バレエは小さいほうがいいのにな。
話がそれました^^古語がきゅんとするのは、ずっと続いてきたものたちを思うからかなあ。