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「日本人の知らない日本語」   

我が家で今、一番人気の漫画は「日本人の知らない日本語」(蛇蔵&海野凪子)。

大人も子どもも全員楽しめて、毎ページげらげら笑って、またつい読んでしまう。この本は、日本にある日本語学校で、外国人に日本語を教えている「凪子先生」のブログを漫画化したものだそうだが、異文化交流のおもしろさと日本語の奥深さがいっぱいに詰まっている。

「助数詞」の説明で、凪子先生が「長くて細いものは『一本』と覚えましょう」というと、「じゃあ、ヘビも『一本』ですね」と中国からきた生徒。「ヘビは『一匹』です 動物だから」…中国では川もヘビも同じ「条」で数えるのに…

さらに生徒たちの質問がどんどんマニアックになってくると「日本人の知らない日本語」。

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先生「あせらず身近なものから覚えましょう。例えばイスは『脚』」
生徒「なら便器も脚ですか」
…君の人生には便器を数える機会が?
(調べたら便器は「一据」でした)
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#そんなん知らん…

物の名前でも、「レンゲ」「とんすい」くらいならいいとして、カレーを入れるあんなの(アラジンと魔法のランプみたいなかっこうの…答: グレイビーボート)とか、「醤油を入れる四角くて仕切りのある皿(答: 薬味醤油皿)」とか。生徒たちは、よく飲食店に皿洗いのバイトなどにいくので、食器類は馴染み深いらしい。

この漫画を何度か読んで、フト思ったのだが、ここに出てくる生徒たちは、ボキャブラリーや文字上の問題はたくさんかかえているものの、文法的な間違いをほとんどしない。仁侠映画で日本語を覚えたマダムが「おひかえなすって」とか「水臭いことおいいでないよ」と言ったり(笑)、敬語は覚えても状況に応じた適切な程度というのが難しいので「次おめもじ叶う日を楽しみにしております。先生もお疲れの出ませんように」などと日本人も使わない美しい日本語になったりしているが、別に日本語として間違っているわけではない。

もっとも、助詞や時制の間違いなんて別にネタにならないってことで、漫画上は仮に正しい日本語をしゃべらせているのかもしれないが…

文法上の問題を取り上げた本としては、私の古い愛読書「はじめての人の日本語文法」(野田尚史)に詳しい。これは日本人向けの日本語文法の本だけれども、なにしろネイティブにとってはむしろ文法のありがたみというのはピンとこないもので、中学校でいちおう現代語の文法は習っただろうけれども「あの口語文法というのはいったい何のために勉強したのでしょうか。口語文法を習ったおかげで話すのがうまくなったり、文章がすらすら書けるようになったりした人がいないとすると」(この本の「はじめに」より)というくらい、つまらないわけだ。

だから、日本人にとって日本語文法は「覚える」ものではなく、中に潜む規則性を見出す、というものなのだけれど、あまりにも日本語が空気のような存在で、考えるとっかかりがない。それで、この本では外国人がした間違いや、質問を題材に「さぁどう説明しますか?」と迫ってくる。

例えば、テーマ「格助詞」だったら
・大学を卒業したら、大学院入りたいです。
・桜町三丁目バスを降りてください。
・ぼくは工藤夕貴といっしょに結婚したい。
・広島まで中学校時代の友達会いに行きました。
・「いつ日本に来たんですか」「1988年 来ました」
さて、どこがおかしいの? なぜおかしいの? という具合。「山に登った」「山を登った」はおかしくないのに、「頂上に登った」はありで「頂上で登った」がダメなのはなぜ?

つまりこの本は「日本人が知らない日本語文法」。「日本人が知らない日本語(漫画)」と違って、あまりすらっと読めない本なんだけど(いちいち「何が違うんだ??」と立ち止まらないといけないから)、これは噛めば噛むほど味の出てくるするめのような本なのだ。

文法なんて考えなくても日本語を話せるのに、どうしても文法が気になるのは、外国人とコンピューターに日本語を教えるとき。今、本の出版時期をみたら、ちょうど私が社会人になった年に発行されていた。私は、外国人には日本語を教えないけれど、ちょうどこの本を読んで面白いと思って、コンピューターに日本語を教える仕事の方へ流れていったんだよね。感慨深い。。

by an-dan-te | 2009-08-18 13:21 | 生活 | Comments(4)

Commented by origami at 2009-08-18 22:20 x
この本、ちょっと前に恵比寿アトレの本屋に平積みになっているのを見て思わず買ってしまい、大ヒットでした。

助数詞の中では、4年生娘は
食パン(斤)とか、豆腐(丁)も、知りませんでした。
日ごろ使い慣れてない数え方は確かに難しいですね。
Commented by an-dan-te at 2009-08-18 22:52
origamiさん、
お~、買いましたか(^^)
二作目の準備もしているようですし、続きも楽しみですね!!
> 食パン(斤)とか、豆腐(丁)も、知りませんでした。
子どもは、意外なところに穴があるんですよね。
Commented by もも at 2009-08-20 12:48 x
私も昨日本屋さんで見かけて買いました。子供が小さいころ、1ぴき、2ぴき、3ぴきって数えてて笑ったことなども思い出しました。日本語を教えるって難しいですね~。二作目も楽しみです。
Commented by an-dan-te at 2009-08-20 20:51
ももさん、
またろう幼少時は、みんなが「蚊にさされた」とかいうものだから、「かに」という名前だと思っていて「かにがいる」「かににさされた」とかいってました。蟹?
こじろう幼少時…というよりかなり大きくなるまで、「白い」「赤い」などにつられて「みどりい」といってました。
この本の外国人の方はそれに比べるとずいぶん達者に日本語を操ってますね。

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